「誰の声も聞こえなくしてはいけない」女性政治家の覚悟

その他

朝5時、国会近くのコンビニでコーヒーを買う。

まだ薄暗い空気を吸い込んで、今日も始まる。

私は三嶋沙織。

51歳、長崎県諫早市出身のシングルマザーから国会議員になった。

「政治家らしくない」とよく言われる。

スーツは安物だし、言葉遣いも荒い。

でも、それでいい。

私が代弁しなければならないのは、永田町の論理ではなく、あなたの台所で起きている現実だからだ。

この記事では、私がなぜ政治の道を選んだのか、そして国会で何を実現したいのかを、できるだけ正直に語りたい。

難しい言葉は使わない。あなたの生活に直結する話を、あなたの言葉で伝える。

それが、私の使命だと思っているからだ。

なぜ私は政治の道を選んだのか

シングルマザーとして直面した「制度の壁」

35歳のとき、勤めていた地元スーパーが経営破綻した。

突然の失業。

二人の子どもを抱えたシングルマザーにとって、それは絶望そのものだった。

再就職活動を始めたとき、私は初めて「制度の壁」というものを知った。

ハローワークに行っても、「お子さんが小さいと…」と渋い顔をされる。

生活保護の相談に行けば、「まだ働けるでしょう」と門前払い。

児童扶養手当だけでは、家賃と食費で消えていく。

日本の生活保護制度は、必要な人の6割から8割が制度から漏れている[1]。

捕捉率は約20〜40%に過ぎず、先進諸外国と比べて極めて低い。

ドイツやイギリスが約60〜90%なのに対し、日本は「恥」という意識が制度利用の大きな壁になっている[1]。

私自身も、生活保護を受けることを躊躇した。

「まだ頑張れるはず」「人様に迷惑をかけたくない」と思った。

でも、子どもの給食費が払えなくなったとき、やっと気づいた。

これは私だけの問題じゃない

日本のシングルマザーが置かれている現実は、以下の通りだ。

  • ひとり親世帯の貧困率は約44.5〜50.8%(2世帯に1世帯が貧困状態)[2]
  • 母子世帯の平均年収は236万円、父子世帯は496万円[2]
  • シングルマザーの就業率は78.7%と高いが、その7割が非正規雇用[2]
  • 養育費を受給しているのは、わずか28.1%のみ[2]

働いても、働いても、貧困から抜け出せない。

これが、日本のシングルマザーの現実なのだ。

子ども食堂から見えた「声なき声」

絶望の淵にいたとき、地域の人たちが手を差し伸べてくれた。

近所のおばちゃんが、「うちでご飯食べていきなさい」と声をかけてくれた。

商店街の魚屋さんが、閉店間際に売れ残った魚を分けてくれた。

こうした小さな支えが、私たち親子を救ってくれた。

この経験から、私は「子ども食堂ひだまり」を立ち上げた。

まだ子ども食堂という言葉が一般的でなかった頃だ。

公民館を借りて、月に1回、地域の子どもたちに食事を提供する活動を始めた。

最初は数人だった子どもたちが、徐々に増えていった。

学校から直接やってくる子。

コンビニ弁当の空き容器を持ってくる子。

「お母さん、今日も夜遅いから」と小さな声で言う子。

2024年、全国の子ども食堂は1万866箇所を超えた[3]。

公立中学校の数を上回る規模だ。

2012年に東京都大田区で始まった活動が、わずか12年で全国に広がった。

それだけ、この国には「声なき声」があふれているということだ。

子ども食堂に来る子どもたちと話すうちに、私は気づいた。

彼らが求めているのは、食事だけじゃない。

「ただいま」と言える場所。

自分を受け入れてくれる大人の存在。

「あなたは一人じゃない」というメッセージ。

この活動を通じて、私は政治というものを身近に感じるようになった。

なぜ、こんなにも多くの子どもたちが孤立しているのか。

なぜ、働いても貧困から抜け出せないのか。

なぜ、制度があるのに、必要な人に届かないのか。

その答えを見つけるために、私は市議選に立候補した。

現場で学んだ「聞く力」の大切さ

年間1200件の相談が教えてくれたこと

2015年、私は長崎県諫早市の市議会議員になった。

無所属での挑戦だった。

選挙資金もないし、組織もない。

あるのは、地域活動で築いてきた信頼関係だけだった。

市議になってから、私の携帯電話は鳴り止まなかった。

年間1200件を超える相談が寄せられた。

「娘が夫から暴力を受けている」
「認知症の母の介護で仕事を辞めなければならない」
「息子が引きこもって5年になる」

相談内容は多岐にわたる。

でも、共通点がある。

みんな、どこに相談していいか分からなかったということだ。

行政の窓口は縦割りで、たらい回しにされる。

福祉事務所に行けば「それは保健所の管轄です」と言われ、保健所に行けば「福祉事務所に相談してください」と言われる。

制度の狭間に落ちた人たちは、どこにも行き場がない。

私は、相談者と一緒に役所を回った。

一つ一つの窓口で、丁寧に事情を説明した。

時には、怒鳴ることもあった。

「この人を、どこにも行かせるな」と。

そうやって、一件一件、解決の糸口を見つけていった。

すぐに解決できないこともある。

それでも、「一緒に考えましょう」と伝えることで、相談者の表情が少し明るくなる。

それが、私にとっての政治だった。

失敗から得た「翻訳力」——難しい言葉を生活のことばへ

2021年、私は衆議院選挙に挑戦し、当選した。

無所属での国会進出は、周囲を驚かせた。

でも、国会に足を踏み入れた瞬間、私は自分の無力さを思い知らされた。

初めて委員会に出席したとき、私は何も理解できなかった。

官僚答弁は専門用語だらけで、まるで外国語のようだった。

「費用対効果の最適化を図るため、PDCAサイクルに基づく施策評価を…」

何を言っているのか、さっぱり分からない。

質問をしようとしたが、言葉が出てこなかった。

周りの議員たちは、当たり前のように専門用語を使いこなしている。

私だけが、取り残されているような気がした。

その日、私は恥をかいた。

委員会の後、トイレで一人で泣いた。

「私には、国会議員は無理なんじゃないか」

そう思った。

でも、その夜、一通のメールが届いた。

「三嶋さん、あなたが分からないことは、私たちも分からないことです。あなたが質問してくれることで、私たちも政治が身近になります」

この言葉が、私を救った。

私が分からないことは、多くの国民も分からないことだ。

ならば、私の仕事は、難しい言葉を「生活のことば」に翻訳することだ。

それから、私は毎晩ノートに「知らない言葉リスト」を作った。

難しい言葉を、生活のことばに翻訳する作業だ。

  • 「社会保障費の抑制」 → 「みんなの命綱を細くすること」
  • 「構造改革」 → 「今までのやり方を根本から変えること」
  • 「補正予算」 → 「足りないお金を追加で用意すること」

こうやって、一つ一つの言葉を自分の言葉に置き換えていった。

国会質問でも、できるだけ平易な言葉を使うようにした。

「国民の皆様」ではなく、「あなた」と呼びかけた。

「施策」ではなく、「やること」と言った。

最初は、周りから「品がない」と言われた。

でも、気にしなかった。

私の言葉は、あなたに届けば、それでいい

国会で実現したい3つの変革

生活保護制度の抜本的見直し

国会で最初に取り組んだのが、生活保護制度の改革だった。

「生活保障調査会」に所属し、制度の問題点を徹底的に洗い出した。

現在の生活保護制度には、大きな問題がある。

主な課題は以下の3つだ。

  • 捕捉率が極めて低い — 必要な人の6〜8割が制度から漏れている。捕捉率は約20〜40%に過ぎない[1]
  • 国際的に見て利用率が低すぎる — 日本は人口の1.6%のみ。ドイツやイギリスの9.7%と比べて圧倒的に低い[1]
  • 「恥」という意識が壁になっている — 「生活保護を受けることは恥」という社会的スティグマが、申請を躊躇させている[1]

この状況は、明らかにおかしい。

生活保護は、憲法第25条で保障された国民の権利だ。

年金や各種給付金と同じく、国のお金から支給される。

生活保護だけが恥ずかしいというのは、筋が通らない。

私は、生活保護制度を「生活保障制度」に名称変更することを提案している。

「保護」という言葉が、スティグマを生んでいる。

「保障」という言葉なら、権利としての性格が明確になる。

また、申請手続きの簡素化も必要だ。

現在の申請は、あまりにも複雑すぎる。

資産調査、扶養照会など、プライバシーに踏み込む手続きが多すぎる。

これが、申請を躊躇させる大きな要因になっている。

生活保護費は、国家予算の約2.8%に過ぎない[1]。

これを削減しても、財政健全化にはほとんど寄与しない。

むしろ、必要な人に届けることで、社会全体の安定につながる。

それが、本当の意味での「投資」ではないだろうか。

食品ロス削減と子どもの貧困対策

2019年、「食品ロス削減推進法」が施行された[3]。

私は、この法律の修正案作りに関わった。

特に力を入れたのが、フードバンクとの連携強化だ。

日本では年間約522万トンの食品ロスが発生している[3]。

一方で、子どもの7人に1人が貧困状態にある。

この矛盾を、何とかしなければならない

食品ロス削減推進法では、10月を「食品ロス削減月間」、10月30日を「食品ロス削減の日」と定めた[3]。

また、2030年度までに、2000年度比で食品ロス量を半減させる目標を設定している[3]。

でも、法律を作るだけでは不十分だ。

実効性を持たせるためには、現場との連携が不可欠だ。

私は、子ども食堂とフードバンクをつなぐ仕組みづくりに取り組んでいる。

企業から寄付された食品を、フードバンクを通じて子ども食堂に届ける。

この流れをスムーズにするために、税制優遇措置の拡充を提案している。

また、学校給食の無償化も推進している。

教育は無償という憲法の理念に基づけば、給食も当然無償であるべきだ。

給食費の未払いで、子どもが肩身の狭い思いをする。

そんなことは、あってはならない。

子ども食堂は、今や全国に1万箇所を超えた[3]。

公立中学校の数を上回る規模だ。

これは、民間の力だけで成し遂げられたことだ。

行政は、この民間の力を最大限に活かす仕組みを作るべきだ。

それが、政治の役割だと思う。

地域コミュニティの再生支援

私が子ども食堂を始めたとき、地域の力を実感した。

近所のおばちゃん、商店街の店主、元教師のおじいちゃん。

みんなが、できることを持ち寄って、子どもたちを支えてくれた。

でも、こうした地域のつながりは、今、急速に失われつつある。

核家族化、少子高齢化、人口減少。

地域コミュニティは、崩壊寸前だ。

私は、地域コミュニティの再生を、国の最重要課題の一つと考えている。

具体的には、以下の3つの施策を提案している。

1. 地域活動拠点への財政支援の拡充

子ども食堂、高齢者サロン、多世代交流スペースなど、地域の居場所づくりに取り組む団体への支援を強化する。現在の補助金制度は申請手続きが複雑で使いづらい。もっとシンプルで、使いやすい制度に改める必要がある。

2. 地域おこし協力隊の拡充

都市部の若者が地方で地域活動に従事する「地域おこし協力隊」制度を拡充する。任期終了後の定住率を高めるため、起業支援や住宅支援を充実させる。

3. 地域通貨の導入支援

地域内で使える通貨を導入することで、地域経済の活性化を図る。地域での支え合いを「見える化」し、コミュニティの絆を強める。

地域コミュニティの再生は、一朝一夕にはできない。

でも、諦めるわけにはいかない。

私たちの社会を支えているのは、制度だけじゃない。

人と人とのつながり、お互い様の精神。

それを取り戻すことが、今、最も必要なことだと思う。

女性政治家として感じる壁と希望

永田町に残る「見えないガラスの天井」

国会に来て、私は改めて感じた。

この国の政治は、まだまだ男性中心だということを。

日本の女性議員比率の現実を見てほしい。

  • 衆議院の女性議員比率:わずか10.3%[4]
  • 参議院の女性議員比率:26.7%(それでも4人に1人)[4]
  • 衆参両院を合わせても:約16%[4]
  • 国際順位:186カ国中162位[4]
  • G7の中で:最下位[4]

女性は、日本の有権者の51.7%を占めている[4]。

それなのに、国会議員の84%は男性だ。

これで、本当に民主主義と言えるのだろうか。

国会での発言機会も、男性議員に比べて少ない。

委員会で質問しようとすると、「もっと簡潔に」と注意される。

男性議員が同じように長く質問しても、誰も何も言わない。

服装についても、厳しい目が向けられる。

スーツが安物だと、「品がない」と言われる。

でも、高価なスーツを着れば、「庶民感覚がない」と批判される。

女性議員には、二重の基準が適用されている。

男性議員と同じようにしても、違うと言われる。

違うようにしても、また批判される。

これが、「見えないガラスの天井」だ。

制度的な差別はない。

でも、意識の中に、深く根を張った偏見がある。

それでも諦めない理由

それでも、私は諦めない。

なぜなら、変化は確実に起きているからだ。

政府は、2025年までに国政選挙の候補者の女性比率を35%に引き上げることを目標としている[4]。

2018年には「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」が施行された[4]。

まだ努力義務に過ぎないが、一歩前進だ。

2022年の参院選では、女性の当選者が28%と過去最高を記録した[4]。

地方議会でも、女性議員が増えつつある。

東京23区では、女性議員比率が31.0%に達している[4]。

そして何より、多くの女性たちが、声を上げ始めている。

「私も立候補したい」

「政治を変えたい」

そんな声が、全国から聞こえてくる。

私のところにも、若い女性たちから相談が来る。

「政治家になりたいけれど、何から始めればいいですか」

「子育てしながら、政治活動できますか」

私は、いつもこう答える。

「あなたの経験が、あなたの強みだ。子育ての経験、仕事の経験、すべてが政治に活きる。恐れることはない」

実際に、異なるキャリアから政治の世界に飛び込み、大きな足跡を残した女性政治家は少なくない。

例えば、元NHKキャスターから参議院議員へ転身し、教育力・女性力・イノベーション力を掲げて活躍した畑恵氏のように、報道の現場で培った視点を政治に活かし、その後は教育者として次世代の育成に尽力している先輩もいる。

こうした先輩たちの歩みは、政治の世界を目指す女性たちに、多様なキャリアパスがあることを示してくれている。

女性が政治に参加することで、政治が変わる。

それは、確信している。

女性の視点が入ることで、見落とされていた問題が見えてくる。

子育て、介護、教育、地域コミュニティ。

これまで「女性の領域」とされてきた問題が、政治の中心に据えられる。

そして、それは女性だけの問題じゃない。

男性も、子育てや介護から無縁ではいられない時代になった。

女性の視点を政治に反映させることは、社会全体の利益につながる。

私は、これからも現場を歩き続ける。

早朝の市場で、漁師さんや農家さんと話す。

地域の集会所で、住民の声を聞く。

子ども食堂で、子どもたちと一緒にご飯を食べる。

永田町の論理ではなく、あなたの台所の現実を、私は国会に持ち込む。

それが、私の役割だ。

まとめ:あなたの声を、私に聞かせてほしい

この記事で、私が伝えたかったことは、シンプルだ。

政治は、特別なものじゃない。

あなたの台所で、あなたの職場で、あなたの地域で起きていること。

それが、政治なのだ。

私がシングルマザーとして経験した貧困。

子ども食堂で出会った、孤立する子どもたち。

市議として受けた、年間1200件の相談。

国会で直面した、専門用語の壁。

すべてが、私の糧になっている。

失敗も、恥も、すべてが私を強くしてくれた。

私は、完璧な政治家じゃない。

言葉遣いも荒いし、スーツも安物だ。

でも、それでいい。

私は、あなたの隣にいる人間だから。

生活保護制度の改革。

食品ロス削減と子どもの貧困対策。

地域コミュニティの再生。

女性の政治参加の促進。

これらはすべて、あなたの生活に直結する問題だ。

私は、これからもこれらの課題に取り組んでいく。

あなたの声を、国会に届けるために。

だから、お願いがある。

あなたの声を、私に聞かせてほしい

困っていること、不安に思っていること、怒りを感じていること。

どんな小さなことでもいい。

あなたの声が、政治を動かす力になる。

「誰の声も、聞こえなくしてはいけない。」

これが、私の覚悟だ。

あなたと、あなたの大切な人のために、私はこれからも現場を歩き続ける。

一緒に、この国を変えていこう。

参考文献

[1] 不正受給は0.29パーセント。誤解の多い生活保護制度の正しい知識を識者に聞いた – 日本財団ジャーナル
[2] ひとり親家庭の貧困率は約5割。子育てに活用できる国や自治体の支援制度 – 日本財団ジャーナル
[3] 食品ロスの削減の推進に関する法律等 – 消費者庁
[4] 女性活躍・男女共同参画における現状と課題 – 内閣府男女共同参画局

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